ベーシックインカム導入の鍵を握る財源について考えてみたいと思います。
ベーシックインカムは、財源が確保できないので難しいという声もありますが、明確な財源論を掲げる識者も数多くいます。
ここでは、財源論の一例を挙げながら、財源をどのようにするのか解説します。

ベーシックインカム導入には、いくら必要か。
ベーシックインカム(BI)とは政府から、国民全員に、毎月「必要 最低限の生活が可能な金額」を無条件かつ一律に給付する制度のことです。
ベーシックインカムの基本情報については、こちらをご覧ください

給付額については、一人当たり7万月5~15万円程度で議論されることが多いですが、ここでは一人当たり月7万円で考えてみましょう。
日本の総人口は約1億2600万人(2020年6月 総務省統計局データより)です。
そうすると、必要な額は
約1億2600万人×7万円×12カ月=約106兆円 と考えられます。
ベーシックインカムの財源として挙げられるもの
ベーシックインカムに関する財源として様々な方法が挙げられています。
代表的なものは以下です。
- 社会保障制度(国民年金、失業保険、生活保護、児童手当など)をベーシックインカムに統合し、予算を付け替える
- 通貨発行
- 法人課税
- 金融資産(現金預金・株式証券債券)の課税
- トービン税(金融取引税)
- 消費税
- 防衛費の一部を削減して財源にあてる
- 富裕税
- 環境税
- AIロボット税
など
専門家によるベーシックインカム財源論の例
ベーシックインカムに関する財源論の一例です。
「組み替え可能な予算」+「増税」を財源とする場合
経済学者で、「AI時代の新・ベーシックインカム論」の著者・井上智洋氏による財源論です。(参考:東京経済政策会第56回経済政策勉強会「ベーシックインカム」資料・2018年)
月7万円程度の給付を想定。
組み換え可能な予算が36兆円で、不足分の64兆円を増税で賄うとしています。
財源の内訳は以下のようになっています。(※必要額は約100兆円としています)
100兆円 | 20兆円 | 老齢基礎年金、子供手当、 雇用保険 |
16兆円 | 公共事業、中小企業対策費、地方自治体の民生費のうちの福祉費削減、生活保護費のうちの医療費負担分、地方交付税交付金の削減 | |
64兆円 | 増税(所得税だけで賄う場合、税率+25%) ※相続税、固定資産税などから賄えば所得税率は下げられる |
この案では、所得税に大きく課税しているので、年収の高い人たちに負担が大きくなります。
累進性の所得税25%の場合、年収336万円以上になると、増税額が給付額を上回ります。
また、子供も一律給付されるため、子供の多い世帯は、受給額が大きくなり、子育てや教育の費用に充てることができます。
この分野の草分け的な本「ベーシック・インカム」の著者、経済学者・原田泰氏の財源モデルも同様の考え方ですが、給付額を大人が7万円、子供が3万円としています。
BIは所得控除を代替するものと位置づけ、雇用者報酬(給与)と自営業者の所得への所得税を最大の財源としています。
井上氏の財源論は、原田泰氏の財源論がベースになっているようです。
「2階建て」の財源の場合
井上氏は、また、「2階建て」のベーシックインカムも提言しています。
「固定BI」+「変動BI」という考え方です。
「固定BI」は、税金を財源とした社会保障制度としてのベーシックインカム
「変動BI」は、日銀が国債買い入れで財政資金を供給する「ヘリコプターマネー」を財源とした、景気によって給付額が変動するベーシックインカムです。
「ヘリコプターマネー」とは、「ヘリコプターからマネー(お金)をばらまく」ように、中央銀行や政府が国民に対して無条件に現金を給付する経済政策のことです。
中央銀行または政府が、対価を取らず、国債買い入れで財政資金を供給して、大量の貨幣を市中に供給。中央銀行のバランスシートは債務が増え、債務超過の状態になります。
この政策は、世の中に出回るお金が増えるのでインフレになりやすくなります。
これに対し井上氏は「変動BIはインフレ率、失業率に応じて給付するが、デフレならできる。日本は今はデフレなのでインフレ率が2%になるまでやるべき」と提言しています。
既出のベーシックインカム財源論に対する反論
一方、財源の観点からベーシックインカム導入に反対する識者もいます。
雇用ジャーナリストの海老原 嗣生氏は、既出の財源論に対する反論として以下のような点を挙げています。
(参考:ベーシックインカムでは「日本は幸せになれない」~日経BizGate)
①7万円という中途半端な額では、生保・年金・失業給付などの行政サービスはほぼスリム化できない。
②行政サービスをスリム化できるほどの支給額(月額13万円)では、所得税率80%にもなるため、負担感が大きすぎる。
①の「行政サービスはほぼスリム化できない」については、生活保護の対象者は医療費も保護されるが、ベーシックインカムで生活関連費が不支給となれば、医療費補助のための新たな審査が必要になる。
保険料を7万円から払うのは困難で、生活保護を申請しなければならなくなる。
年金は、3階建て構造の1階部分のみを代替しても、2階、3階部分の作業は残存する
といった説明をしています。
②の支給額月額13万円は、現在の生活保護費の平均的な支給額と同額です。
ベーシックインカムの財源について考える まとめ
ベーシックインカムが実現できるどうかは、財源の問題を解決できるかにかかっていますが、社会保障制度が関わってくるため複雑で議論の余地も多いにありそうです。
私は、前述の例の1人月7万円と、自分のやりたい仕事で生活することが理想的だと思います。
しかし、仕事がない場合を考えると、7万円だと、子供が多いとある程度にはなりますが、1人だとそれだけで生活するのは心もとないので、井上智洋氏の「固定BI」+「変動BI」という考え方に賛成です。
海外の事例なども含めて、今後も財源の問題に注目していきたいと思います。
こちらの記事もご覧ください。
ベーシックインカムとは~分かりやすく解説
ベーシックインカム~海外の実例
ベーシックインカムに対する著名人の意見や発言のまとめ
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