ベーシックインカムの起源と歴史についてご紹介します。
ベーシックインカムの起源は、最初の提唱者を誰にするかによって違いますが、一番古いトマス・モアだとすると、約500年前まで遡ります。
起源やこれまでの歴史は、ベーシックインカムの在り方を考える上で参考になります。
ベーシックインカムの基本情報については、こちらをご覧ください

ベーシックインカムの起源
ベーシックインカムの起源を探ると、3人のトマスがに行き当たります。
3人ともファーストネームがトマスなのは偶然の一致のようです。
トマス・モア
トマス・モアはイングランドの法律家、思想家です。
1516年の著書「ユートピア」という架空の旅行記で、失業や飢えのない国を描いています。
ここでは、1日6時間の労働義務があり、生産された財をお金を払わずに好きなだけ持ち出してよい社会が描かれています。
労働する、しないに関わらずお金を受け取ることができるベーシックインカムとは違いますが、一般的にこの著書を起源とする人が多いです。
トマス・ペイン
トマス・ペインはイングランドの哲学者です。
彼は1796年の著書「土地配分の正義」でベーシック・キャピタル(基本資産)を提唱。成人になったら全ての人に15ポンド、50歳以上の人には10ポンドを給付するものとしました。
この財源は地代。土地は元々誰の所有物でもなく、全ての人の共有財産なので、土地を利用するものは地代を収めるべきと主張しています。
この制度は、土地から得られた利益を国民に配当する形となっています。
トマス・スペンス
トマス・スペンスはイングランドの哲学者です。
1797年の著書『幼児の権利』において地域共同体ごとに、土地を共有財産として、その土地から得られる地代(税金)を集め、公務員の給料などの必要経費を支出して余ったお金を年4回、老若男女に平等に給付する案を発表した。
国民全員に給付する制度しては最も古く、ベーシックインカムの起源といえるかもしれません。
ただ、最低限の生活が保証されるわけではないので、純粋なベーシックインカムとはいえません。
1800年代以降のベーシックインカムの歴史
1800年代から今に至るまで、数多くの専門家による様々なベーシックインカム案を経て、現代的なベーシックインカムが醸成されていきます。
ジョセフ・シャルリエ
ジョセフ・シャルリエはベルギーの思想家です。
1848年の著書において、地代を社会化しそれを財源として「保証された最低限」の所得をすべての人に給付することを提唱しました。
人は生きる権利を持っている(自然権)ことを前提とし、人類の共有財産である土地の私有化を問題としました。
J.S.ミル
J.S.ミル(ジョン・スチュアート・ミル)はイギリスの哲学者です。
1848年の著書 「経済学原理」で「労働の可否に限らず最小限度の生産物の分配を行うことで、 労働生産性が高まる 」と主張しました。
クリフォード・ヒュー・ダグラス
クリ フォード・ヒュー・ダグラスはイギリス生まれのエンジニアで思想家です。
1924年、自らの著書「社会信用論」で「国民配当」の考えを主張。「貨幣発行益」を財源にして、月5ポンドのお金を給付することを提案しています。
また、生産資本が十分にあるにも関わらず、失業や貧困が蔓延している理由を、財を消費するために充分な所得が労働者にないためであるとしています。
貨幣発行益というのは、中央銀行などで貨幣を発行することで得られる利益のことです。
リズ・ウィリアムズ
リズ・ウィリアムズは、イギリスの女性作家であり経済学者です。
1943年の著書「新しい社会契約」で社会配当と呼ばれるBIに極めて近い制度を提唱しました。
給付額は、週1ポンドかつ扶養する子供一人当たりに週0.5ポンドで、財源を税としています。
就労の意思が無く、かつ家事労働に従事していない人は給付対象外としている点はベーシックインカムと異なっています。
「新しい社会契約」という提案の中でベーシックインカム型の給付制度として「社会配当」を提唱。国家と個人の間の契約という形を取り、国家の責任は個人とその子供の健康な生活を維持すること、個人の責任は可能な限り富の算出に努力するとしました。
給付額は、週1ポンドかつ扶養する子供一人当たりに週0.5ポンドとしました。
財源を税とし、資力調査を行わない点でベーシックインカムと似ていますが、就労の意思が無く、かつ家事労働に従事していない人を給付対象外とした点では異なります。
ジェイムズ.M.ミード
ジェイムズ.M.ミードは、イギリスのケインズ学派の国際経済学者です。
社会配当という呼称でベーシックインカムを提唱しました。ベーシックインカムによって有効需要を創出かつ、労働需要を減少させ、社会保障や経済、完全雇用のサイクルを循環させるという考えに立っています。
ミルトン・フリードマン
ミルトン・フリードマンは、アメリカの経済学者でノーベル賞受賞者です。
1962年の著書「資本主義と自由」において貧困問題の解決策として負の所得税を提唱。新自由主義的な経済論に立脚した、社会保障制度によらない貧困対策を提唱しました。
「負の所得税」は、低所得者がマイナスの徴税、つまり給付が受けられる制度のことです。
ベーシックインカムでは、税額とは関係なく、国民全員が例えば月7万円の給付を受けます。
これに対し、負の所得税では、税額から84万円(年額)という給付額を差し引いた額を実際に納税します。
その差額がマイナスの人は、納税せずに給付を受けられます。
ガルブレイス
1969年の著書「豊かな社会・第二版」で、権利としてのベーシックインカムを提唱しました。
技術革新による必要労働量の低下(技術的失業)に着目し、雇用と所得保障の分離の必要性の指摘、失業手当の充実等を主張しています。
マーティン・ルーサー・キング
キング牧師は、アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者です。
非暴力的な市民の団結と不服従の価値を説いたことで知られていますが、ベーシックインカムについても、その価値を説くなどの取り組みを行っています。
1967年、著書「黒人の進む道 世界は一つの屋根のもとに」の中で「貧困を解決する最も簡単な方法は基本所得の保障」と書いています。
ベーシックインカムをめぐる国際ネットワーク

1900年代末期になると、ベーシックインカムの考え方の普及を目指した国際的なネットワークがつくられます。
世界各国のベーシックインカム導入に向けた動きはこちらをご覧ください。

ベーシックインカム地球ネットワーク(BIEN)
1986年、ベーシックインカムに関する国際的な議論を促進する「ベーシック・インカム欧州ネットワーク」(BasicIncomeEuropeanNetwork,BIEN)という組織が設立されました。
2004年には「ベーシック・インカム地球ネットワーク」(BasicIncomeEarthNetwork,BIEN)と改名しているが、変更されても組織名の略称はBIENのままとなっています。
日本からは同志社大学の山森亮教授が主要メンバーとして参画しています。
BIENは1年に1回(かつては2年に1回)国際会議を催しており、2020年は9月28日から30日までオーストラリアのブリスベンで開催予定です。
著名なBI支持者では、これまでフィリップ・ヴァン・パレースやゲッツ・W・ヴェルナー、ガイ・スタンディングなどが講演や報告を行っています。
3人についてご紹介します。
フィリップ・ヴァン・パレース
パレースはベルギーの哲学者で、「ベーシック・インカムの哲学」などの著作があり、「リアル・リバタリアニズム」という思想を提唱しています。
社会には政府から干渉されない形式的な自由がある程度はあるが、好きなことを行う実質的な自由がない。この実質的な自由の実現を図る思想がリアル・リバタリアニズムです。
ゲッツ・W・ヴェルナー
ヴェルナーはドイツの実業家で、「すべての人にベーシックインカムを」などの著作があります。
ベーシックインカムの導入とともに、税制を消費税に統一して簡素化することを提唱しています。
ガイ・スタンディング
スタンディングは、イギリスの経済学者で、「ベーシックインカムへの道」などの著作があります。
その著作の中で「共和主義的自由」を提唱。
私たちは政府から介入されない自由があるが、生活が保障されていないため、実質的にはブラック企業を止める自由がない、妻が横暴な夫から自由になる自由がない。そのような支配をうける潜在的可能性がないことが共和主義的自由だとしています。
ベーシックインカムの起源と歴史 まとめ
ベーシックインカムという言葉は使われていなかったようですが、500年ほど前からベーシックインカム的な考え方、思想が生まれ、様々な論点から提唱されていたことに驚きました。
時代によって政治や経済の状況が異なっているはずですが、ベーシックインカムの過去の提唱も今に通じる部分が多いと思いました。
例えば、1700年代のトマス・ペインは、土地から得られた利益を国民に配当する制度を提唱しました。この時は「土地から得られた利益」に限っていますが、所得の分配というベーシックインカムの考え方と同様の考え方です。
また、ベーシックインカム地球ネット―ワークでの「好きなことを行う実質的な自由の実現を図る」という提唱は、ベーシックインカムが目指す重要な部分だと思います。
参考:AI時代の新・ベーシックインカム論(光文社・井上智洋)、Wikipedia
ベーシックインカムの可能性を探る(三井物産戦略研究所)
ネコでもわかる経済問題
BIEN(Basic Income Earth Network Official website)
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