【ベーシックインカム】無条件でお金がもらえると労働力低下につながるのだろうか?(調査結果・導入例等を紹介)

ベーシックインカム-働く・働かない-イメージ

政府が国民全員に、毎月「必要最低限の生活が可能な金額」を無条件かつ一律に給付するベーシックインカム。

ベーシックインカムの反対理由の一つに、「無条件でお金がもらえると労働力低下につながる」という考えがあります。

「無条件でお金がもらえると人はどうなるか」あるいは、「働かないことはダメなことなのだろうか」という興味深いテーマについて考えてみましょう。

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目次

働きたくても働けない人が増える

AI技術-イメージ

今回のテーマから少し逸れてしまいますが、そもそも、「人が働かなくなる」ことを心配する以前に、近い将来「働きたくても働けない人が大量に増える」ことが予想されています。

野村総合研究所と英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン準教授らの共同研究(2015年)で、「10~20年後の日本において、労働人口の約49%の職業が人工知能やロボットによって代替可能である」とする研究結果が発表されました。

このことは、2025~2035年位には、日本の半分の労働者が転職または失業の状態になる可能性があるということを示しています。

さらに詳しい内容は、「ベーシックインカムとは~分かりやすく解説」の「AIの発達による大量失業が予想される」をご覧ください

このことが、ベーシックインカム導入が必要とされる主な理由の一つです。

かなりの割合の人が失業となったら、国民全員に「必要最低限の生活」を保障するには、ベーシックインカムという制度が適していると思われます。

このことを念頭に置きながら、今回のテーマを考えてみましょう。

ベーシックインカムの実験結果~働かなくなったのか?

ファインランド-ヘルシンキ
ヘルシンキ(フィンランド)の街並み

ベーシックインカムに反対する理由として、「無条件でお金をもらうと、働かなくなるのではないか」という意見があります。
雇用に対する影響を、海外での実験や導入の事例をみてみましょう。

海外での実験等の実例はこちらにまとめてあります。
ベーシックインカム~海外の実例

ベーシックインカムが雇用に対する影響は少ないとの結果

以下の2つの実験では、雇用に対してそれほど影響がないのではないかとの結果が出ています。
ただし、対象者が失業者、収入が一定以下、期限付き等の条件があり、純粋なベーシックインカムとは異なっている点は考慮しなければなりません。

フィンランドでの実験

フィンランドは、2017年1月から失業者2,000人を対象に毎月560ユーロ(約6万8,000円)を2年間支給する実験を行いました。

最終報告書によると、
2017年11月から1年間の平均就業日数は、ベーシックインカムの受給者が78日であったのに対し、失業手当受給者では73日と、受給者がわずかに多く、「ベーシックインカムが雇用にもたらす影響は小さかった」と分析されました。(ただし、実験期間中に失業手当の受給要件が変わったため、どの程度影響があったかの正確な検証は難しいとされています)

また、受給者を対象としたインタビュー調査では、その多くが「ベーシックインカムが自律性を高めた」と回答。
ベーシックインカムが、ボランティア活動など、新たな社会参加を促すケースもあったそうです。

カナダ・マニトバ州での実験

カナダのマニトバ州ドーフィンという小さな街で1974年から5年間、MINCOME(Minimum incomeの造語)と呼ばれた実験プログラムが行われました。

収入が一定以下であれば、参加を希望する住民全員に現金を支給。マニトバ州ドーフィンとその周辺住民約1万人のうち、3割程度がこの実験に参加しました。

一人当たり年間最大1.6万カナダドル(約131万円)の現金給付を行うというものでしたが、他に所得を持つ者に対しては所得額に応じて最大で半額(約65万円)まで引き下げられました。

実験結果では、労働時間を減らした住民は、男性で1%、既婚女性で3%、未婚女性で5%に過ぎなかったことが報告されています。
また、貧困者数の減少、支給対象者の生活が安定等の効果が得られたとの結果が出ているようです。

ベーシックインカム導入で国民が働かなくなった失敗例

ナウル共和国は実際にベーシックインカムを導入した唯一の国ですが、それによって国民が働かなくなり、最終的に経済が破綻しました。

「ベーシックインカムを導入すると、働く意欲をが失われてしまう」失敗例として挙げられることが多いです。

しかし、前述の実験とは違い、ベーシックインカムの内容が過剰だったとされています。

ベーシックインカムは「最低限の生活はできてもそれだけで生活するのは少し厳しい」という程度にとどめることが重要だと思います。

ナウル共和国のベーシックインカム

ナウル共和国は、オーストラリアとハワイの間に位置する21平方km(東京都品川区とほぼ同じ)小島にある人口約1.3万人(2018年)の共和国です。

欧米列強国による植民地化を経て、1968年に独立を達成すると、それに伴ってリン鉱石採掘による莫大な収入がナウル国民に還元されるようになります。
その結果、1980年代には国民1人当たりのGNPが2万ドルに達しました。当時の日本の約2倍、アメリカ合衆国の約1.5倍という世界でもトップレベルの裕福な国になりました。

医療費、学費、水道・光熱費、税金に至るまで全て無料。その上、生活費が支給され、新婚には一軒家が提供されました。

国民は働かなくても生きていけるようになったため、リン鉱石採掘などの労働はすべて外国人労働者に任せるようになりました。
その結果、勤労意欲うが失せてしまい、国民は公務員(約1割)と無職(約9割)だけとなり、「毎日が日曜日」のような時代がが30年ほどつづくことになりました。

しかし、リン鉱石の枯渇により、1990年代後半には、経済は破綻状態となり、その後、再建に向け模索が続いています。

ナウル共和国は、いまだに国民の90%が失業していると言われています。

働かない人がいてもいい理由

これまでは「働ける人が働くことは当たり前」との前提で、考えてきましたが、ベーシックインカムを導入した時に「働けるのに働かない人」をゼロにすることは不可能でしょう。

また、「働けるが、ブラック企業で無理やり働きたくない」と、希望の働き方を実現できる職場を探す人もいると思います。

それでも、「働けるのに働かない人」に給付するのはよくないと考える人も少なくないと思います。

一方で次のような意見もあります。

  • 働けるのに働かない人が一定数いてもいい
  • 働く意欲のある人だけが働けばいい
  • ブラック企業で無理やり働く必要はない

私もこういった意見に賛成です。
そして、ベーシックインカムでは最低限の生活分だけの保証なので、多くの人は生活の充実や貯蓄のために働くはずだと思います。
そして、働かない人も責められるべきではなく、ずるいとも思いません。

また、現在の生活保護制度では、収入があると支給が減らされるので、働かない場合があるようです。
ベーシックインカムは働いた分だけ収入が増えるので、こうした問題は起きないと思います。

ベーシックインカムの「働かない人」問題について、以下に識者の意見の一部をご紹介します。

怠け者は運が悪い

経済学者の井上智洋氏は、自らの著書で「なぜ怠け者も救済されるべきか?」という問いに対して、怠惰が貧困の主要原因とみなされている日本の現状を指摘しながら、以下のように述べています。

私たちの意思決定に関する心的メカニズムは遺伝と環境(偶然)によって決定づけられており、私たちはそのメカニズム自体を意志によって直接変えることはできない。 労働意欲が低いのも意志が弱いのも、全てはハンディキャップの一種であり、怠け者は究極のところ運が悪いのである。

怠け者になるかどうかは、全て遺伝と環境(と偶然)によって決定される。だから、本来であれば障害者や重い病気の人同様に幸福に生きる権利があり、救済が必要だ。
AI時代の新・ベーシックインカム論 (井上智洋・光文社)

井上氏は、ギャンブル好きだったり、意思決定力が弱いことは一種のハンディキャップではないだろうかと問いかけています。
また、労働意欲や能力に恵まれている人はラッキー、怠け者に生まれついたり、育った人はアンラッキーであるとしています。

働くことが不得意な人間が一定数いる

また、実業家の堀江貴文氏も、「働くことが不得意な人間が一定数いる」とした上で、ベーシックインカム導入を提唱しています。

この世の中には「働く」ことが不得意な人間が一定数いる。

そうした人たちに労働を強いるより、働くのが好きで新しい発明や事業を考えるのが好きで本気で働きたい人間にのみ、どんどん働かせたほうが効率がよい。
また、ベーシックインカムという最低限の収入が担保されたことで、起業など若者がチャレンジしやすい環境になる。

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マズローの法則(欲求5段階説)とベーシックインカム

ここで、人間の欲求を5段階のピラミッドのような構成で説明する心理学理論「マズローの法則」からベーシックインカムをみてみましょう。

マズローの5段階欲求-図

マズローの欲求5段階説

マズローの欲求5段階説では、人間の欲求を以下の5つの構成で説明しています。

1.生理的欲求
生きていくために不可欠な、基本的・本能的な欲求(食べたい、寝たい、飲みたいなど)のこと

2.安全欲求
危機を回避して、安全・安心な暮らしがしたいという欲求のことです。

例えば、雨風をしのぐ家に住む、健康な生活を送りたいといった最低限の暮らしを確保したいという欲求です。

3.社会的欲求
集団への帰属、仲間が欲しくなるなどの欲求です。
この欲求が満たされない状態が続くと、孤独感や社会的不安を感じやすくなります。

4.承認欲求
他者から認められたい、尊敬されたいという欲求です。
この欲求が満たされないと、劣等感や無力感などを感じやすくなります。

5.自己実現欲求
自分の能力を生かして、自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きていきたいという欲求です。

マズローの法則にベーシックインカムを当てはめてみる

ベーシックインカムが導入されると、全ての人に、マズローの欲求5段階のうち、1と2の段階が保障されるでしょう。

1と2が満たされると、多くの人は3以降の欲求が起きてくると思います。

3以降の欲求を満たすには、様々な方法があると思いますが、働くことによって、集団に帰属したり、他社から認められたり、自分の能力を生かして何かを成し遂げたいという欲求を満たしていくことが一般的だと思います。

もちろん、働くことだけで、全ての欲求が満たされるとは限りませんが、働く上での大きなモチベーションになるのではないでしょうか。

まとめ

「無条件でお金がもらえると、人は働かなくなるのだろうか」という問いは、実際にベーシックインカムを導入してみないと分かりませんが、海外のこれまでの実験事例や自分の感覚からすると、ほとんどの人は、月7万円程度の給付額だったら、働くことをやめないと思います。

また、誰もが働けない状況になったり、失業したりする可能があると考えると、もしもの時の最低保証があると、心強く、心理的プレッシャーからも解放されると思います。

そして、「働けるのに働かない人」が一定数いても、そのことによるデメリットよりも、ベーシックインカム導入によるメリットの方が大きいと考えます。

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